旅する日本語展2018
新菱冷熱工業株式会社の黒木 勝大さん
旅する日本語展2018

連動インタビュー企画

私の旅する日本語

私を変えた旅は「知らない人への声かけから
無限に広がる好奇心に満ちたものでした」

新菱冷熱工業株式会社
首都圏事業部技術三部技術四課 主査 黒木 勝大

「大学を卒業するまで、ずっと生まれた北海道の地で過ごしていました。就職を決める際、『ここで終わってしまってよいのだろうか』という思いに駆られて、東京の企業に就職することを決めました。就職活動のために乗った飛行機がはじめてひとりで乗った飛行機でした。就職の面接のこともあり、とても緊張していましたね」と思い出を語る黒木さん。

旅のエピソードを語る黒木さん

巨大施設の空調、給排水などの機械設備を担っている新菱冷熱工業株式会社に勤務する黒木勝大さんは現在羽田空港国際線ターミナルビルの増改築工事に従事し、6人の部下を抱える現場代理人(所長)として毎日羽田を訪れている。これまで帰省や旅行のために通過するだけだった羽田空港だったが、この仕事についてからは見方が変わったと教えてくれた。空港ロビーを見渡して「ああ、ここの壁の向こうはこうなっていて、あそこの床下はこうなんだ」と気になることが増えたのだ。「職業病ですね」と黒木さんは笑う。

いまや職場となった羽田空港だが、もちろん旅行への窓口の一つでもある。印象に残っているのは2010年に奥様を含む友人たち6人でのグループ旅行で屋久島を訪れたときのことだ。友人が学生時代の遠足の時のような「旅のしおり」を用意してくれ、大いに盛り上がった。「しおりは本格的なもので、幹事のこだわりが感じられました。愛唱歌などもたくさん掲載されていました」。きっちり練られたプランで本当に充実した旅になったと感謝している。島で食べたサバとキビナゴは本当においしかったし、なにより屋久杉の大きさと、そのたたずまい、取り巻く空気がこのうえなく神々しく、仕事で疲れた心をきれいにし、癒されていくことを感じた。「この時に、上から見るとハート形に見える切り株を見つけて撮影しました。旅行の時は妻と結婚したばかりだったこともあり、いまでもリビングに飾ってあります。これを見て『また行きたいね』と話すこともあります」。癒しの旅はたのしく、そして愛を育むものでもあったようだ。

一方で、黒木さんが自分で旅行する際には、綿密なプランは立てない。「『旅の恥はかき捨て』という言葉が好きで、モットーにしているんです」と黒木さんは話す。「家族で福岡に旅行した際にも地元の人に話しかけて『もつ鍋のおいしい店』を紹介してもらいました。地元の人しか知らないようなお店だったのですが、ほんとうにおいしくて、話しかけてよかったと思いました。おいしいもつ鍋が一層おいしく感じられるようでした」。満足そうに思い出を語ってくれる黒木さんの言葉運びは穏やかだ。しかし、その普段もの静かな人柄が、反対に旅先の大胆な行動を導き出すのかもしれない。「知らない人に話しかけることで、世界が広がるので楽しいですよ」と黒木さん。それだけで思わぬ体験ができるのに、いっときの恥ずかしさで逃してしまうのはもったいないと考えているそうだ。

こんなエピソードもある。大学の卒業旅行でも道内の苫小牧を訪れ、地元の漁師さんに話しかけると、とれたてのウニを「好きなだけ食べていいよ」と言われたことがあった。そこで自分たちでこじあけておなかいっぱいウニを堪能した。「失敗することもありますが、話しかけるのはやはりいいことがあるので、下調べだけをして出かけて、地元の人に聞くことが多いです。『聞いたほうが早い』というスタンスなので」と黒木さんは目じりを下げる。

帰省や出張、旅行の窓口だった羽田空港が職場になったことで、空港を見る視点が変わった。空港のちょっとした空調に対しても「温度調整は大丈夫か」と心配したりする。これはいままで手がけたほかの施設でも同じで、「おもいっきり楽しもう!」と意気込んで出かけても、自分がかかわった施設はつい気になってしまうのだ。それでも、黒木さんはずっと残るものをつくっている自分の仕事に誇りが持て、気分がいいそうだ。「『子どもや両親にこれをつくったんだよ』と言えるのは良い仕事だと思います。会社員なので希望してではなく、アサインされて羽田にやってきましたが、ロビーに七夕など季節感を感じる装飾がされているのを見ると、日本ならではの繊細さに感動します」。

黒木さんにとっては、仕事もまた旅のようなものだ。仕事のつらさは旅の恥と違って「かき捨て」とはならないが、次の現場に移動してもつくり上げた施設は今後も残ってゆく。それがうれしくて、また次の現場へと黒木さんは出動する。

黒木さんの今の夢は、現在かかわっている羽田空港国際線ターミナルビルが完成したら、そこをつかってフライトすることだ。できたての「作品」をつかって、仕事の達成感に浸る。大変な仕事を終えたからこそ味わえる醍醐味。そして同時にもう一つの妙味である「旅の恥はかき捨て」を旅先でも味わうだろう。緻密で誠実な仕事に従事する毎日があるからこそ、旅先での大胆さが生まれ、そのメリハリがこれからも黒木さんの仕事と旅を支え続けてくれるのだろう。

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