旅する日本語展2018
株式会社梓設計の増田 彩乃さん
旅する日本語展2018

連動インタビュー企画

私の旅する日本語

私を変えた旅は「素敵な言葉で
あふれていました」

株式会社梓設計
エンジニアリング部門
電気システム部主任 増田 彩乃

「数年前、大学時代を過ごした熊本を訪れました。熊本には『通町筋(とおりちょうすじ)』という場所があって市電に乗ってそこを通ると、視界が開けて熊本城が見えるんです。その景色が大好きだったのですが、熊本地震後に久しぶりに目にしたお城は工事中で・・・。友人たちのことを心配しながらもなかなか訪れられなかったこともあり、たまっていた思いがあふれてくるようでした」。羽田空港国際線旅客ターミナルビルなど数多くの傑作建築を手掛ける組織建築設計事務所、株式会社梓設計。そのエンジニアとして、空港をはじめとしたさまざまな施設の電気設備を設計している増田彩乃さんの目が少し潤んで見えた。それは、6年間を過ごした熊本への強い思いを感じさせるものだった。

旅のエピソードを語る増田さん

増田さんは福岡生まれで幼少期は茨城で育ち、その後大分に引っ越した。大学時代は熊本に住んでいたこともある。福岡の祖父母に会いに行くときには飛行機を利用しており、子どものころから羽田空港には親しみがあったそうだ。熊本で大学院を修了後、就職を東京でしようと決めたため、就職活動開始にともなって羽田空港の利用回数は増えた。面接がうまくいかず、帰りの飛行機を待つ空港で、天井を見ながらぼんやりしてしまったこともある。合格したときにはうれしくて、自分へのお祝いにと、ターミナル内でちょっと豪華な天丼を食べた。

増田さんが就職した2010年は新国際線旅客ターミナルが竣工し、利用が開始された年でもある。その設計はかつてあこがれて、いまは職場になった梓設計が担当。「羽田空港には不思議な縁がある気がします」と微笑む。

年に3回は友人や同僚などと旅をするという増田さん。出張で飛行機に乗ることも多いが、気持ちは全く異なる。旅行の際には、空港や飛行機が別物に見えるほどリラックスできるという。それは「旅に出たら、なるべく普段のことを忘れ、気持ちを切り替えて自分を解放してあげること」という増田さん流の旅のルールの賜物かもしれない。

そんな増田さんの旅の思い出でもっとも印象深いのが、沖縄への卒業旅行だという。「大学の同じ学科の女子は13人と少ないので結びつきが強く、今でも定期的に集まったり、旅行をしたりしています。沖縄への卒業旅行では、旅に出ると人は普段とは違う姿を見せるんだと気づいたんです」という増田さん。普段は聡明でしっかりものの友人が、沖縄に着いた瞬間からまるで別人のようにはしゃぎ、精力的に動き回っていた姿が忘れられないという。大学4年間を一緒に過ごした友人の、まるで別人ともいえる新しい面を見たことは衝撃的だった。「今でも再会すると、その話になって笑いあうんです」と言う。そんな本当の姿を見せあったかけがえのない友人だからこそ、各地に散らばったいまも、お互いの地元を行き来し合える仲なのだろう。

増田さんは、旅の思い出とともに旅で出逢った印象的な「言葉」のエピソードを 2つ話してくれた。2016年、熊本で地震があった翌日のこと、増田さんは京都にいた。京都のお寺で友人の結婚式に参列するためだった。しかし、お祝いの場なのに熊本のことが頭をよぎり、どうしても暗い気分になってしまう。自分は遠い場所にいて熊本がどんな様子かわからないし、何もできない。そのことが不安でしかたなかったし、周囲の人々も同じ思いだった。

そんな結婚式で、式長(結婚式を司る僧侶)がこんな話を聞かせてくれた。「『誕生』という言葉に使われる『誕』という字は、もともと『むやみに引き延ばす』というよくない意味を持つものです。ですから生まれるときには幸せだけではなく、試練も与えられます。だから、人間はそれを乗り越えて生きていかねばならないのです」。幸せな結婚式の前夜を眠れず過ごした新郎・新婦や増田さんら参列者の心にその言葉は深く触れ、前を向く力を与えてくれた。

転居した友人を訪ねていつものメンバーで富山に行ったことがある。このとき、増田さんは「きときと」という言葉を初めて耳にした。これは「生きがよく新鮮なさま」を表す富山の方言で、特に魚などに使われる。食べ物をはじめ、建物や街など、新しいものに出合え、新鮮な気分になれることが、旅のよさだと増田さんは思っている。「きときと」は増田さんの旅を象徴する言葉でもある。

おだやかで心地よい距離感を持った日本の風土が好きだという増田さん。これからも日本国内の各地や、卒業旅行では行けなかった沖縄の離島に足を運んでみたいという。もちろん熊本城も訪れたい。増田さんと羽田空港の素敵な縁は、これからもまだまだ続いてゆく。

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