旅する日本語展2017

たくさんのご応募ありがとうございました!

私の「旅する日本語」

結果発表

※ 受賞をされた皆様には、
後日Twitter/InstagramはDMにて、
ShortNoteは、運営よりご連絡をさせて頂きます

旅する日本語 最優秀賞 … 1名

潔白の証し

父が会社員だった時、父の会社では毎年社員旅行があった。出不精の父だったけれど、社員旅行だけは欠かさず参加していたと思う。旅行のお土産はお菓子一箱か海辺ならお手軽干物セットのようなありきたりのものが多かった。

ある旅行の年、父が帰宅すると母が大きな声で私を呼んだ。

「ちょっと、お父さんがこんなもの買ってきたよ!」

大きな箱を開いた中には、大きな獅子の置物が入っていた。

「何これ?名物なの?」

「ううん、違うけど、これはお父さんの潔白の証しなんだって。」

「ふーん。」

それは、とてもじゃないけどかわいいとは言えなかったし、まだ小学生だった私はお菓子じゃなかったことにがっかりしただけで、わざわざ呼ばれて見せられても何の関心も持てなかった。

その時の社員旅行の行く先が有名な温泉街で、夜、同僚の男性たちが近くの歓楽街に繰り出す中、一緒に行くのを断った父がひとりで街に散歩に出て買ってきたのだと教えてもらったのは、私が少し大人になってからの話。

獅子の置物は40年以上経った今も、床の間に誇らしげに座っている。

会社一筋で、遊ぶことなどほとんどしなかった父だったけれど、古い旅行の写真の中で楽しそうに笑っているのを見ると、義理で仕方なく行ってたわけでもないんだな、と少し嬉しい。

「それにしても、こんな重いものをよく背負って帰ってきたもんだわ。」

獅子を見るたび、母はいまだにそうつぶやいている。

優秀賞 … 2名

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連れ添う

何事もなくここまできた訳じゃないことは

知っている

自分のしらない二人の思い出があることも

恋をして

親になり

祖父母になり

諍いも涙も

どこかへ流してきたのだと

二人の座る距離に

来てよかったと思う

金婚式の旅

雨の宿

まだまだ続く二人三脚の旅を祈って

hiyorimi36

その青さに惹かれて、修学旅行で買った泡盛。飲めないので中身は祖母に託した。学校から帰ると、空いた瓶の傍で、祖母が気持ちよさそうに眠っていた。もう20年程前のことだ。空上戸が干してくれた瓶は、今も変わらず宝物。

入賞 … 11名

深夜こそ肉が食べたい〜夏〜

嫌な事があれば深夜の旅に出る。旅と言っても支度も無くコンビニで買った100円のホットコーヒーを相棒に1人で愛車を走らせる。朝が来た場所が即席旅の目的地。

車を降りぬるくなったコーヒーを飲み干して空を見るとそこには朝が生まれ、嫌な昨日を侵食している。

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湿気を帯びた暑い風、ギラギラと照り注ぐ夏の光が、海を、葉を草花を、人を鮮やかにする。

「お帰り」と明るく迎えてくれた。

そんな空気が不安な気持ちを少なくし勇気を与えた。

8年ぶりに逢うんだ。幼い時のかすかな記憶しかない父に。

はたけ山親方

幸せな離陸

結婚生活って、飛行機と似てるな。

そんなことをぽつりと考えたのは、友人の結婚式に出席する為に搭乗した機内でのことだった。

久しぶりの再会となる友人との、笑える想い出や一緒に乗り越えた辛い経験を思い出していた。

きっとあの子はこれから、人生の伴侶として選んだ人と、同じ飛行機で旅していくのだろう。

病めるときも、健やかなるときも。

それは平穏を脅かす乱気流であったり、小さな窓から見える美しい光景だったりするのかもしれない。

どこかできっと、搭乗者も増えるに違いない。

ふふっ、と一人で笑いが溢れて、幸せな気分になった。

彼女の人生に幸多からんことを、グッドラック!

そして願わくば、私と飛行機に乗り込んでくれる人が現れますように。なるべく早急に。

#旅する日本語

#壮挙

へなちょこ

星釣り

高台に上る。

南の空の地平線ギリギリに見えるひときわ輝く星を拳を握りしめた腕いっぱい伸ばして星の位置を測る。

拳一つ分が10度の傾斜だと教えてくれたのは少し年上の友達でした。

彼は将来船に乗って働くことや星の位置をを正確に測る方法を教えてくれました。

子供の頃、夜が怖くて眠れなくて。そんな彼が街でも見える星を魚になぞらえて釣りの話をしてくれました。

夜の寝入り端、秋から冬の急に冷えた夜、娘に絵本を読んだ後に星の話をしているとやがて睡眠剤のように娘は目を白黒させて眠ります。

つい最近、娘が物置から金属でできた錆びた星座盤を出してきました。

友達に貰った星座盤で裏面には友達の名前をマジックで消して小さく「道を見失わないように」と書かれています。

世界のどこかの星空の下、友達も釣りを楽しんでいるかもしれない。

南のフォーマルハウトとカノープスを星座盤で見つけてそんなことを思ったのです。

#旅する日本語 #凍て星 #投稿エッセイ #あの人の思い出

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これが最後の家族旅行になる。

両親はその事実を知っていた。

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北海道生まれの母が選んだ、沖縄旅行。

真逆の所に飛んでいきたかったのかもしれない。

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沖縄は暑いと思っていた。

南の島だからいつでも海に入れると思っていた。

この旅は、明らかにシーズンを間違えている。

わかりきっていながら始まる2泊3日。

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当時の私は早すぎる反抗期の真っ只中。

「沖縄が寒いなんて聞いてない」とふてくされていた。

オーシャンビューのホテルから見える、透き通る青い、大荒れの海。

私が密かに楽しみにしていたグラスボートは欠航だった。

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最後だと知っていたら。今はそう思う。

もっと気の利くことを言えたかもしれない。

もっと子どもらしく振る舞えたかもしれない。

ふたりに、ふたりきりの時間をプレゼントしてあげられたかもしれない。

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黒糖作り、パイナップル園、乗馬、水族館、

ジンベエザメが見られなかったこと、

初日のホテルの方が良かったこと、

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観光用の定額タクシーに乗ったこと、

途中で運転手がサトウキビを買ってくれたこと、

初めて口にするその甘さに驚いたこと、

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鍾乳洞に3人の笑い声が響いたこと、

そこで特別なハブのお酒を予約したこと、

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それが届くのは何年後かということを説明された父が

一瞬黙って唇を噛んだこと、

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その一瞬に気付いた母が

私の手を握ったこと、

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大半のことは忘れてしまっている気がするし

きっと随分と記憶が美化されていると思う。

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それでも、

父と母が私に全てを隠して

一緒に連れて行ってくれた

シーズン外れの沖縄旅行。

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どこをどう切り取ったって

複雑な心境だったに違いない。

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新婚旅行はしてないの、と母。

あれが新婚旅行も兼ねたつもりの旅だったなら、

ふたりはどんな気持ちで海を見ていたのだろう。

どんな気持ちで娘がはしゃぐ姿を見て、

どんな気持ちでファインダーを覗いて、

どんな気持ちで帰りの飛行機に乗ったのだろう。

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シーズン外れの沖縄旅行。

大人になった私は改めて知る。

そんな時季はわざわざ選ばない、と。

でもそれは、父と母がやっとの思いで決めた旅。

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大人になった私は更に知る。

あの病状で長時間の飛行機移動は無理があること。

東京から沖縄が、

耐えられる最長距離だったということ。

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父から娘へ。

夫から妻へ。

最後のプレゼント。

シーズン外れの沖縄旅行。

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10/22、私は数年ぶりに高熱を出して寝込んだ。

体が痛くて起き上がれない。でも寝すぎて寝れない。

ベッドの中、とりあえずスマホを見つめる。

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ふと というものが目にとまり、

勢いでそこにあった全ての物語に触れた。

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スマホを閉じ、自分がした数々の旅を振り返った。

そこで最も丁寧に思い返したのが先述のとおり。

明るい話じゃないけど。

私も書きたくなったので。

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私にとって今のところ最初で最後の沖縄旅行。

そろそろ良いかな、と思いつつ、なんとなく、

10年以上経っても塗り替えることができずにいる。

そろそろ母を連れて行きたいなと思いながら

今年もまた夏が過ぎてしまった。

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私が妻や母になる前に、

ただの娘でいるうちに、

私が母を必ず連れて行きたい。

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良いものを見たなぁ。

写真は、母からのプレゼント。

私がお店を出した日に手渡された手作りブーケ💐

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(毎度ながら長々と失礼しました!)

otc_radio

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 みずうみの絵葉書が届いていたのは、そういえばここしばらく、母からメールも電話もないとおもっていて、そろそろどうしているのか、気になりはじめていたところでした。

 話すのを忘れてしまっていたか、急にきまった旅行だったのか。

 どこに行くともわたしは聞いていませんでしたが、

「今日はみずうみに来ています」

 と絵葉書を裏に返したさきにあって、

「お父さんも一緒です。温泉に入って、ふたりでもう少しゆっくりしていきます」

 と、何年も目にしていなかった母の字が、先の丸い太めのペンで書いてあります。

 温泉といいつつ絵葉書のここを選んでいるも、湖を平仮名で「みずうみ」としてあるのも、いまの母らしい癖ですが、その半分くらいは、父の海好きに寄せてあげたのでしょう。

 でも、元気にしていますか、と終わりのほうになって訊いてくる母は、それに続けて、なぜかいつもの電話の話し方そっくりで、こう書いています。

「お母さんです」

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『見和ぐ』見て心が和やかになる。

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fiore

#旅する日本語 #探勝

きっかけは、死んだように眠る私の足元に、そっと毛布をかけてくれたことだった。

ロンドンからの帰国便。

仕事帰りの私は、疲れ切っていた。

ふと目を覚ましたのは、離陸から9時間も経った時だった。

隣の席の男性が毛布を指差しながら「スリーピングビューティーはとても寒そうだった」と英語で話しかけてきた。

ウィーン出身の彼は、日本を旅するために1ケ月の休暇を取ってきたと私に熱く語った。

出来るだけ多くの場所を訪ねたいという願望とは裏腹に、最初の目的地が未定だったことに私は驚いた。

「君の住む町に行きたい!」

容易に断れたはずなのに、私は何故かその時彼の唐突な提案を受け入れた。

湘南の海は穏やかだった。

BBQをしていた家族にランチをご馳走してもらった後、鎌倉を歩いた。

彼の日本探勝の1ページ目を飾ることとなった一期一会の出逢い。

20年の時を経た今も鮮明に覚えているのは、彼の笑顔が飛び切り素敵だったから

かもしれない。

はな*はな

瀬をはやみ いわにせかるる たきがはの われても すゑに 逢はむとぞおもふ

遠方に年に一度会う大切な友がいる。

今年も会えるとウキウキしながら荷造りしていると一通のメールが。

「言うのが遅くなってごめんなさい。

主治医に終末宣告されました。

痛みが出たらホスピスへ入所します。

会ってビックリしたらと思ってメールしました。

ずいぶん痩せてしまったけれど羨ましがらないでね(笑)」

そう書かれたメールに胸が押しつぶされそうになった。

当日までずっと、どんな顔をして彼女に会えばよいのかわからなかった。

待ち合わせの時間が近づくにつれ涙がこぼれそうになる。

でも今 泣いてしまうのは違う。

それは きっと違うのだ。

涙腺を締めるため 夏の空に顔を上げた。

青い 青い空

どこまでも

青く 続く空

彼女に会った瞬間 私の不安は全て吹き飛んだ。

彼女は一年前と変わらない屈託無い笑顔で私の前に現れた。

病と闘う彼女は外見は違えど中身はなにも変わっていなかった。

そう、なにも変わってはいないのだ。彼女自身も。私も。

大切な友であることを病が邪魔できるはずもない。

私達の関係に、なにも入るものも変わるものもない。

今も。これからも。

私と彼女の間を隔てるものなど最初からなにもなかったのだから。

帰路につく日も 空がとても美しかった。

またね。

#旅する日本語

#逢瀬

tonchiki

一擲

「もう!うるさいッ!!

私の事は、放っておいてよ!」

若い頃

コントロールフリーク気味の父とは、

なかなか関係をうまく結ぶことができなかった。

その父を、7年に渡る自宅介護で見送って

そして、随分な時が流れた。

その昔、

道元禅師は「放てば手に満てり」と仰ったそうだ。

手にもっているものを、一度手放してみると新しいものが入ってくる。

そうやって人は大切なものを知る・・と。

写真が趣味だった父。

撮った写真を見る。

沢山のアルバム。

律儀な父の四角い字。

写っているのは母と幼い私。

カメラの向こうの、その視線の暖かさに

眼差しの温かさに

初めて、気づく。

・・・・

・・・・

私は、愛されていた。

愛されていたんだ。

こんなにも。

こんなにも。

父さん

父さん。

お父さん・・・。

小さく声に出して呼んでみる。

・・・・

・・・・

この場所に

行こう。

その場所は、晴れているだろうか

きっと、晴れている気がする。

そうだ。

出かけよう。

出かけるんだ。

父の大きな風に乘る。

その眼差しに乘って。

#旅する日本語

#一擲

#ピックアップ

Yuka USAMI | 宇佐美夕佳

あの日の父は同じような気持ちを抱いたのだろう。

子を持ち初めて親の気持ちがわかる、平凡な日々がどれだけ貴重なことか。

父は私に聞こえるように呟いていた。

飛び立ってから30年。

息子が飛び立った。

父と変わらない気持ちがあることを認めていた。

あやきち

髪と旅

母譲りの髪の毛を寄付することにした。

病気の治療で髪を失った子どもたちに、 ウィッグを作って届ける活動がある。

時々褒められるこの髪が、誰かの役に立つなら伸ばしてみよう。ゴールは肩下31センチだ。

少しだけ高いトリートメントを買う。

ブラシはていねいに、頭皮の血行を良くするように。

ささやかな心がけは、 まだ見ぬ誰かを笑顔にするために。

「私は旅行が好きだから、

髪に旅の匂いをまとわせて、

まだ見ぬ君に届けよう。」

そう決めると、髪は私の探勝の友になった。

祇園祭の宵宮のコンチキチンとたくさんの提灯。

兼六園の朝もや。台北、 小籠包の湯気。

アユタヤと喧騒に、マレーシアのモスク。

いつか見たいと思っていたものを、 まだ見ぬ君への手土産に、

今、見に行こうと思うようになった。

私は髪にそっと言う。

「ねぇ、オーロラ!見える?」

まだ見ぬ君は、私の髪をどんな所へ連れて行ってくれるだろう。

まだ見ぬ君は、私を北の果てまで連れて来てくれた。

旅先で誰かの幸せを思えば、旅はもっと輝く。

#旅する日本語 #探勝

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