



星流る
初期流産、夫と私だけの秘密。親や兄弟や友人には伝えなかった。
『日帰りでどこかに行こうよ』
変わらずに生活していてもどこかで落ち込んだ表情をしていたのだろう、夫は努めて明るかった。夫婦以外の家族は犬と猫4匹はずっとそばで添い寝してくれた。
時間が勿体無いから、と秋の虫の声が聞こえる夜中に出発した。
着いた先は小高い丘、眼下には街の光。空はスモッグで霞んでいるが星座の形ははっきりとわかる。
『今日は流星群のピークだって』
ここは空に近いよ、願い事を言おう。夫が笑顔で促した。
いくつもの星が流れては消え、また流れて行く。願い事を早く3つ言わないと、消えてしまわないうちに。
家族、家族、家族…
あの流れる星が赤ちゃんになって私のところに来たらいいのに。ギュッと握った夫の手は汗でジワリと冷えている。
それでも天の星座のように繋がっていけたらいい。そう思って握り返した。
家族、家族、家族…
星流る。流れ星を受け止めるように私たちはギュッと手を繋いでいた。




旅先で出会う人への最初の第一歩はとても勇気がいる。
嫌な思いをさせてないかな?嫌われたらどうしよう?
ネガティブな感情に打ち勝って、コミュニケーションをとると、
素敵な出会いや思いもよらない冒険に出会える。
ちょっと違うかもしれないけど、僕にとってはこれも壮挙だ。
旅先の宴
晩年、ビリヤードに凝っていた祖母は、いくら呑んでも顔色ひとつ変えない盗人上戸。
その日も、帰りに夕飯の買い物をして戻ると言いながら友人たちとのプレーに出掛けたが、球技場で倒れた後、祖母が帰宅したのは約束より少し遅い時間だった。白装束、穏やかに目を閉じた顔で。
家で呑むことはめったになかったけれど、向こうではたまに友人たちと杯を交わすこともあるのだろうか。
姉御肌で面倒見の良かった祖母だから、酔いの回った彼らを、やっぱり顔色ひとつ変えずに、やれやれと介抱しているのかもしれない。
小娘だった私ももうお酒の呑める歳になって久しいけれど、祖母には似ない不調法。
夜空を眺めながら、たまに見た、美味しそうに赤ワインを呑む祖母の顔を懐かしく、そして羨ましく思い出す。
祖母が空へと旅立ったのは、こんな初秋の日だったから。