旅する日本語展2017

コラム05

株式会社梓設計

株式会社梓設計 エンジニアリング部門 機械システム部 主任

吉川佳江さん

2017.7.13

株式会社梓設計

私にとって旅とは、「逃避から
再生へといたるサイクル」です

日常を離れて旅に赴くと、時には人生を変えるような瞬間との巡りあいがあるもの。自他共に認める旅好きの吉川佳江さん(株式会社梓設計)も、若き日に見た旅先の風景が、その後の人生の転機になった一人だ。

 4月27日、羽田空港第1・2旅客ターミナルビルにオープンしたPOWER LOUNGE。落ち着いた雰囲気のお洒落な空間として、オープン当初から早速旅立つ人が憩う羽田の新名所となっている。このラウンジを設計したのが羽田空港国際線旅客ターミナルビルなど、数多くの傑作建築を世に送り出している株式会社梓設計。多くの建築家を抱える国内屈指の組織建築設計事務所だ。吉川佳江さんも同社が誇るプロフェッショナルの一人。彼女の専門は表には見えにくい空調や給排水といった環境設備まわりの設計である。

 建築を学び始めた当初は、やはり花形の建築デザインを志していたという吉川さん。しかし、「どうしても見る人のセンスや嗜好の範疇で語られやすいジャンルであるため、私に合っているのかなと疑問を抱くようになりまして。それで学んでいくうちに、当時はあまり目立たなかった環境工学に心惹かれるようになったんです」と当時の心境を語る。

 その環境工学とは、建築物から排出されるエアコンの熱気やトイレ排水などの衛生設備に注目し、環境と調和した建築を目指す学問で、2009年からは一級建築士の国家試験にも取り入れられるなど、今、注目されている分野。

「太陽の光や自然の風を取り入れるなど、実際に暮らす方にとっていかに居心地の良い空間を作り上げていけるかに気を配ることができるのが魅力」と吉川さん。職業柄か、建物に入ると「ついついビルの配管とか見ちゃうんですよ」と笑う。

 そんな彼女の仕事以外の楽しみが、旅に出ることだ。

「仕事中でも旅に行きたい衝動にかられるほど大好きです。今年は三月にシンガポール、ゴールデンウィークには石垣島に行きました。そこで透き通った海面の下にマンタを見たり、ウミガメと一緒に泳いだり」

 心から満喫できたのだそう。彼女にとって、旅は逃避であり、再生に至るための重要儀式。日々のハードワークで疲労が溜まった身体を非日常の世界に溶け込ませることでリフレッシュして、再び仕事に取り組む活力を蓄える。「このサイクルが大事なんです」と語る。

旅のエピソードを楽しそうに語る吉川さん
旅のエピソードを楽しそうに語る吉川さん

「だから、旅行の計画段階からワクワクしています。日程を決めて、そこに向かってバリバリ仕事をする。一息つく時も次の旅では何をしようかって想像を膨らませて。もうその瞬間から旅は始まった気持ちになっています」

 このように旅をこよなく愛する吉川さんだが、そもそもの旅好きになった原点は彼女が幼いころから国内外問わず様々な場所に連れて行ってくれたご家族の影響が強いのだという。その中でもひときわ大きな印象を残した旅がある。

「高校生の時に祖父母と共にヨーロッパを旅したんです。その時に巡った都市の中に、ローテンブルクという街がありました。ドイツのロマンティック街道にある、中世がそのまま、現在に残っているような美しい街なんです。その石畳の街路と赤い切妻屋根の建物が並ぶ姿を見て、心が震えるほど感動したのを憶えています」

 数世紀の時を重ね、そこに住む人々の営みと完全に調和した中世の街並み。建築って良いな、私もこの世界に入りたい、その想いが見事に花開き、今に至る吉川さん。現在は、趣味の旅行と仕事の出張で羽田空港を利用することが多いという。

「二週に一度は訪れていますね。ですが、不思議なもので仕事として訪れる時と旅行の時では、空港の風景が全く違って見えるんです。仕事の時は何の感慨もなく、ただ通過するだけ。無表情というか」

 対する旅の際の空港の表情は気持ちを高ぶらせる魅力に溢れて見えるそうだ。その先にある旅の醍醐味は何ですか?と尋ねてみた。

「私は一人では旅をしません。いつも気心の知れた仲間と一緒です。旅先で仲間たちと食べて、笑って、色んな話をして。そして身も心も再生して帰ってくる。けれども、帰ってきた時にはもう次の旅のことを考えているんですよ。その過程すべてが愛おしいです」

そう言って、吉川さんは微笑んだ。

株式会社梓設計が選んだ 旅する日本語

暗涙。遠距離恋愛のクライマックスはいつも空港で訪れる。ゲートに向かいながら手を振る彼に精一杯の笑顔で手を振り返し、そして夜の空に昇ってゆく飛行機を見て涙を流す。彼の目に映る東京の夜景も滲んでいるのだろうか?あんるい……人知れず心の中で流す涙

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